花の季

mitake Posted in 文章教室, 秀作
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文章教室 グループM 4月秀作

「花の季」 湯浅美代子

厳しかった寒さもようやく終わり、陽射しに温もりを感じ、花の便りも聞かれる頃となった。

長い療養介護生活の中、夫が逝ってまもなく二年となる。夫とは桜の季節の思い出がたくさんある。それは歩行困難になり、車いすで外出することが楽しみになってからのこと。

最初は、車いすでの外出をためらっていたが、回を重ねるごとに「あっちに行ってみよう」「こっちの方はどうだ」と行動範囲を拡げていき、花の季節をそれはそれは楽しみにしていた。

二子玉川の療養施設にいたとき、病棟の患者さんが、医師、看護師、介護士の手を借り、総動員で近くの砧緑地公園へ行ったことがあった。

夫はまだ.車いすに馴染めず、ベルトを締めて体を支えた格好での移動だった。住宅街の路地を抜けて公園へ。広大な緑地に伸びやかな桜の枝ぶりは、初めて見る見事な光景だった。

その後、介護施設を何度かうつり、その都度近所のお花見をすることが楽しみの一つになっていた。それまではお花見というと乗り物を使って、伊豆、群馬、茨城、あるいは関西、九州までも行ったものだった。

都内でも上野、浅草、神宮外苑というのが決まりだったが、車いすで行ける範囲は限られてしまう。それで新橋の施設にいたときは、愛宕山の桜、増上寺の枝垂桜、芝公園、浜離宮、それ以外にも芝の東照宮と巡り歩いた。

こうして都内の見事な桜に出会うことができた。いつかまた、夫を偲び訪ねてみよう。

寸評 亡くなったご主人と共有する桜の季節の思い出、夫婦愛がにじみ出ていいですね。九州の桜は熊本城だとか。そこまで行く、、、頭が下がります。crying