再会  グループM4月秀作

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「再会」  服部 佳子

「桜ばな いのちいっぱいに咲くからに 命をかけて わが眺めたり」岡本かの子

今年は記録的な速さで、靖国神社の桜の開花が告げられた。対称的にあの年は、四月に入っても花冷えのする日が続いて、長女の入学式に桜が間に合うのだろうかといつになく開花が待たれた。そんな折、母が突然岡山から上京してくるという。いきなり何事かと訝りながら出迎えた東京駅で、このまま千鳥ヶ淵の墓苑にお参りしたいという。人伝に戦没者の墓苑が建立されているのを知って、是非一度お参りしたかったという。一途な母の行動力に脱帽した。

翌日は入学式を迎える孫の成長を喜び、「いつか又満開の頃に来たいと」と言い残して満足げにさっさと帰郷していった。その後、母の気持ちに応えようと桜の季節には度々千鳥ヶ淵に出向いた。

四、五年前だったか、参拝の帰り道、三々五々と集まってくる人々に出くわした。スピーカーから聞こえてくる主催者の言葉を聞いていると、「今日、日本がこれまでの復興発展を遂げたのは、かって多くの戦友が、この歌のように靖国の桜の花の下に再会を約して戦場に散って行った。その御霊に心から感謝し、これからの日本を考えるためにも、英霊と共に「同期の桜」を高らかに歌いましょう」と促していた。

このような趣旨のもとに「同期の桜」を歌う会が開催されていることを知り、心の奥にやり切れない痛みを覚えた。時代に翻弄された多くの若者が、青春の命を捧げて守った、美しい祖国!

その日本はまた爛漫の春が巡りきている。靖国の御霊は今年も懐かしい人々との再会を、千秋の思いで、待っていてくれるだろう。

 

寸評 私も先だって初めて靖国神社を訪れ、文中のような光景に出くわしました。お母さんの突然の上京から、話の展開が巧みです。

2013/05/16 記

 

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