心太

mitake Post in 秀作
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GM 7月 秀作

「心太} 

服部 佳子

 

さあ今年もやってきました、心太の季節の到来です。

あのツルッとした食感とのど越し、爽やかな酸味がたまらず、時々ふっと食べたくなるんです。

そういえば子供の頃、心太売りの小父さんというのがいて、その小父さんが来ると1、家から飛び出しては、水鉄砲に

似た箱型の筒より突いて出てくる蕎麦状の物をじっと見ていたものです。

筒に入れた時には塊だったはずなのに、突き出された時には、細長く透き通ったものが出てくるのが何とも不思議で、

飽かず眺めていました。

あの箱にはどんな仕掛けがあるのでしょうと、小父さんが来るたびに今日は何かわかるのではないかと、筒先ばかり

を見ていたものだ。

 

突き出してくれる筒先が見えそうで見えない、あ!と思った瞬間、器はいっぱいになっていて、またもやあの不思議を

突き止めるには至らず、その上その味の酸っぱいこと酸っぱいこと!

そんな日々が過ぎ、夏の終わり近くには、いつの間にか小父さんは来なくなっていた。

蒸し暑く気だるい午後の微睡の中で、夢ともつかぬ光景が、、。

 

自転車に取り付けた風鈴の音と共に、遠くから小父さんの呼び声が聞こえてくる。

トッコロテ~ン、トッコロテ~ン!

 

寸評 誰にでもある夏の思い出の一場面ですよね、ごくごく身近な素材でショートエッセイに変身しましたね。

 

 

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